中国で非居住者として銀行口座を開設した話と銀行口座を取り巻く環境についての一考察

最近、中国で外国人が銀行口座を開設するのが難しくなったらしいとの噂を耳にした。実際のところどうなのか。確かめるべく上海・蘇州で旅行の合間に銀行口座開設をしてみた。(以下2017年8月時点の情報に基づく)

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3行聞いてみて口座開設できたのは1行

旅行者でも口座開設できるのか、できるまで片っ端から聞いてみるか、…と思っていたところ、3行目でできてしまった。それぞれの条件は次のとおり。

場所銀行開設条件
上海建設銀行不可就業ビザ無しはダメ
蘇州交通銀行不可雇用先と中国の住所がないとダメ
蘇州工商銀行OKマイナンバーがあればOK

もうちょっと断られるかと思っていたけども、わりとすんなり開設できた。

中国工商銀行での口座開設

蘇州の工商銀行で必要だったものは次のとおり。

  • パスポート
  • 中国の携帯電話番号
  • 日本の現住所(住所を申告するのみ、証明書不要)
  • マイナンバー(数字を申告するのみ、証明書不要)

まず入口近くにいた人に口座開設をしたい旨を伝える。「自分は外国人で持ってる身分証はパスポートで住所は日本」と伝えると「纳税人识别号があるか」と聞かれる。一瞬中国の納税者番号のことかと勘違いして「ない」と答えてしまったが、「日本の納税者番号(=マイナンバー)のことか」と聞くと「そうだ」と言われたため「それならある」と答えた。すると「窓口で受け付ける」と言って番号札を渡してくれた。

行内に客はほとんどおらず、全く待つことなく窓口へ。10年前は銀行といえばそれこそたくさんの客が来てて怒号が飛び交ってるイメージだったので、拍子抜けした。今やネットバンキングやスマホ決済が浸透して窓口に来る必要性はほとんどなくなっているのだろう。

さて、窓口の担当者は新人とおぼしき人で、外国人の口座開設など初めてなのであろうか、かなり戸惑っていた様子であった。後ろからおばちゃんマネージャーがテキパキと指示を出して、それに新人が応ずるという形で口座開設の手続きが進んだ。口座開設申請書に住所や名前を書くのだが、「住所は日本の現住所を英文で書いてください」と指定された。住所の確認はせず、ただこちらが書いただけ。マイナンバーについても申し込み書に記載はしたが、特にマイナンバーの証明書などは不要で何も確認されなかった。

以前、外国人の口座名義の問題1について言及したが、これから開く口座は全て統一してもらおうと思い、紙に「YAMADA_空格_TARO」のように書き、その紙を見せて「間にスペースを入れることは可能か?」と頼んだ。すると、マネージャーはこの問題について認識している様子で「他の口座はこうなっているのか?」と確認、こちらからは「もう一つの口座がスペース有りなので統一してほしい」と伝えた。その結果、英字姓名の間に空白を入れるという名義にしてもらうことができた。

口座開設手続きが順調に進んだので意気揚々と引き返し、アリペイと微信支付に新たな銀行口座を紐付けてみた。以前は「YAMADATARO」という間に空白のない口座は失敗したのだが、今回はちゃんと紐付けることができた。そのとき、ネットバンキングを開設するのを忘れたことに気づき、再度銀行へ戻って開いてもらった。この時、行員から教えてもらったのは、スマホのアプリを使いたい場合は手机银行の開設を申請しなければならないということ。光大銀行の時はパソコン用のネットバンキングを申し込めば自動的にスマホアプリでも使えるようになっていたが、工商銀行の場合は別途申請しておく必要があるそうだ。

中国の銀行口座を取り巻く環境に関する一考察

今回、旅行者(非居住者)として3行に口座開設の可否を聞いてみたところ、2行に断られた。このような結果になる背景はなんだろうか。私見だが、現時点で銀行によって対応が分かれる原因は2つある。1つは個人の銀行口座の管理の厳格化、2つめは非居住者の国際課税逃れに対する管理の厳格化だ。

1つめの個人の銀行口座の管理の厳格化については、中国人民銀行からの通知2が参考になる。これによると、中央銀行が銀行口座の実名制を強化し、口座開設者の身分確認を徹底することを各銀行に求めていることが分かる。ただ、この通知から「パスポートで外国人の身分確認をすること」、また「外国人の口座は国籍別に管理すること」が求められていることは分かるが、非居住者外国人の口座開設を禁止するようなことは一言も書いていない。つまり、「就業ビザ無しはダメ」や「雇用先と中国の住所がないとダメ」という理由は、口座開設を断る正当な事由に当たるとは考えにくい。もしかしたら「パスポートには住所(戸籍)の情報がないので、中国に居住実態のない場合は身分情報の真実性が弱い」などといった、実名制管理の強化に対して不都合な部分があるため、非居住者外国人の口座開設を断っているのかもしれない。

2つめの非居住者の国際課税逃れに対する管理の厳格化については、《非居民金融账户涉税信息尽职调查管理办法》3が参考になる。この《办法》は国際的な課税逃れに対するOECD協力条約4と、金融口座の情報共有5に中国政府が対応するための新たな規定である。税金は住んでる国に払いましょうねというのが国際的に認められたルールなのだが、税率の高い国から税率の低い国に所得を移転して税金を少なくしようと悪巧みを考える人も出てくる。そういった国をまたいだ脱税行為を防ごうというのがこの仕組みだ。これは何も中国に限ったことではなく、G20の国々を中心に、世界の100以上の国・地域がこの枠組みに従った運用を始めている。日本も例外ではなく、銀行に口座を持っていればマイナンバーの届け出が必要となってくる。非居住者に対し、銀行は特別な対応をしなければならないのだが、中国ではこの《办法》の内容が2017年7月1日より開始(しかも公告があったのは2017年5月9日という圧倒的短期)ということで、まだ銀行内で業務フローやシステムが確立できていない可能性がある。そのような理由で非居住者外国人の口座開設を断ったという理由も十分考えられる。

上記2つの原因があってもちゃんと対応できたのが工商銀行ということになる。中国国内に住む外国人ではなく、最初から海外に住む外国人(つまり非居住者扱い)であった。そのため、工商銀行で登録したのは中国の住所ではなく日本の住所、また国際税務の必要性からマイナンバーの申告が必要だったというわけだ。

口座種別の新設

中国人民銀行からの通知に書いてあるとおり、2016年12月1日より、中国の銀行口座が3つの種類に分けられることになった。工商銀行の窓口でもらってきた資料によると、それぞれ次のような特徴があるという。

口座種別機能取引上限額6
I类账户
(Ⅰ類口座)
全機能制限なし
II类账户
(Ⅱ類口座)
決済と投資入出金額1日あたり各1万元、年間累計各20万元
III类账户
(Ⅲ類口座)
少額の決済入出金額1日あたり各5千元、年間累計各10万元

今回、工商銀行で口座開設している間は自分の開いてる口座種別について全く気にもとめてなかった。口座開設後に「ひょっとして非居住者としての口座開設であったから、制限のあるⅡ類かⅢ類の口座になってたりして」と心配になったが、後から口座開設書類の控えを見てみたら、ちゃんとⅠ類口座として開設できていたので安心した。ちなみに2016年11月30日以前に開設した口座は全てⅠ類口座とのこと。今後は同一人物が同一銀行で開けるⅠ類口座の数は1つに限定されるということだ。

なぜこのような口座種別を設けたのか。工商銀行の資料によると次のように書いてある。

「Ⅰ類口座は大きな資金を動かすのに使う、いわばあなたの“金庫”です。Ⅱ類・Ⅲ類口座は限度額を設け主に投資や少額決済に使う、いわばあなたの“財布”です。“金庫”と“財布”を分離することにより、あなたの資金の安全を保障します。」

なるほど、スマホ決済などの進展にともなって、銀行口座をアプリなどと連携する機会が多くなってきている。口座種別の新設は、そのための安全保障としての役割を目指しているのかもしれない。今はあまり一般的でないので、積極的にⅡ類・Ⅲ類口座を開こうとは思わないが、今後どうなるのか、動向を見守りたい。

6ヶ月間取引のない口座は凍結されるか?

2016年12月1日より新たに「6ヶ月間取引のない口座は凍結されるという制度ができた」との情報があったが、確認すると正確には「口座開設の翌日より6ヶ月間取引のない口座は凍結される」が正しい情報のようだ。中国人民銀行の通知7を見ても確かに凍結される口座は「对开户之日起6个月内无交易记录的账户(開設から6ヶ月間取引記録のない口座)」とあるし、新華網の報じる内容8を見ても「261号文書の指す“6ヶ月”は口座開設の翌日から起算して6ヶ月のことであり、口座開設後任意の期間で区切った6ヶ月ではないため、以前に使ったことのある銀行口座なら通常は凍結されない」とのことである。実際、私はここ1年ほど取引のなかった口座を1つ持っていたが、2017年7月(つまり2016年12月1日から8ヶ月ほど経った時点)でネットバンキングにログインしてみたところ、何の問題なく資金移動もできた。当初、利息が振り込まれていたためそれで6ヶ月間動きがなくても大丈夫だったのかと思っていた。しかし中央銀行の文書や報道をよく読んだ結果、特に任意の6ヶ月間を区切って動きを見るわけではないため凍結されてなかったのだと理解するようになった。

ただ、この6ヶ月間動きのない口座が凍結されるされないは、中央文書の規定の話であるため注意が必要だ。長期間動きのない口座は各銀行で内規として凍結基準が決められている可能性があるし、残高が少額だとネットバンキングの手数料(といっても年10元ほどだが)を差し引いていったら残高がなくなる可能性もある。自身で口座を保有している以上、定期的に口座の状況を確認する必要はあるだろう。

いろいろと書いてみたが、中国なので制度変更のスピードは速いし、何事も1年経てば状況が一変することはよくある。地域によって、また銀行によっても対応が異なることはありえる話だ。今後も何がどうなるかは予測もつかないので、リスクを理解して利用していきたいと思う。

以上、中国で非居住者として銀行口座を開設した話と銀行口座を取り巻く環境についての一考察でした!

脚注

  1. 【ユーウェン中国語講座】旅行者として上海で携帯SIMを購入、銀行口座を開設しWeChat Payを使えるようにした話:パスポートに漢字氏名でサインした山田太郎さんが中国で銀行口座を開くと「山田太郎」名義と「YAMADA TARO」名義と「YAMADATARO」名義の3つの可能性があり、アプリやサービスによるが、同じローマ字名義でも姓名の間のスペースの有無で別名義として扱われることがある。
  2. 【中央政府门户网站】中国人民银行关于改进个人银行账户服务 加强账户管理的通知:中国の中央銀行である、中国人民銀行からの2015/12/25付け通知。
  3. 【中国银行业监督管理委员会】2017年第14号 关于发布《非居民金融账户涉税信息尽职调查管理办法》的公告:国家税務総局・財政部・中国人民銀行・中国銀行業監督管理委員会・中国証券監督管理委員会・中国保険監督管理委員会からの2017/5/9付け公告。
  4. 【OECD】Convention on Mutual Administrative Assistance in Tax Matters:中国語は多边税收征管互助公约、日本語では税務行政執行共助条約と訳される。簡潔な解説はKPMGの解説を参照。外務省のウェブサイトには条文原文が公開されているページがある→【外務省】租税に関する相互行政支援に関する条約及び租税に関する相互行政支援に関する条約を改正する議定書(略称:税務行政執行共助条約)
  5. 【OECD】Automatic Exchange – International framework for the CRS:中国語は金融账户涉税信息自动交换多边主管当局间协议、日本語では金融口座に関する自動的情報交換と訳される。簡潔な解説はKPMGの解説を参照。国税庁のウェブサイトにはより詳細な解説がある→【国税庁】共通報告基準(CRS)に基づく自動的情報交換に関する情報
  6. 【中国人民银行】银发[2016]302号文件《中国人民银行关于落实个人银行账户分类管理制度的通知》で原文を確認すると、Ⅱ類口座の「入出金額1日あたり各1万元」の「各」は「紐付けてないⅠ類口座以外からの入金額が1日あたり1万元を超えない、また出金額が1日あたり1万元を超えない」という意味である。以下Ⅲ類口座も年間累計額も同じ。
  7. 【中国人民银行】银发[2016]261号《中国人民银行关于加强支付结算管理 防范电信网络新型违法犯罪有关事项的通知》
  8. 【新华网】银行账户新规实施 个人存量账户不受影响:2016年12月1日付け記事。もとの記事は中国証券報より。